335581 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

JUNK ISLAND

第6話

「イキシア」
第6話

俺たちはただ走っていた・・・。
目の前にヴァーラやコルトバが現れても無視し、ただ来た道をひたすら走って戻っていた。
必死だった。こうして走っているうちもガースはあのディ・ラガンと戦っている。
いくらガースでも、いつ命を落とすか分からない・・・。
急いで援軍を呼ぶ必要があった。俺はガースから受け取った手紙を手にし、走った・・・。

何分ほど走っただろうか、足が思うように動かず、体が重い。
体全体が悲鳴をあげている、脳に信号を伝える、これ以上走ると危険だと。
しかし、止まるわけにはいかない。何のためにこの体を鍛えてきたのか。
頼む、援軍要請を伝えるまででいい。伝え終わったら足なんてあがらなくてもいい。
だから、持ちこたえてくれ・・・。

目の前に光が広がる、ようやく、フライトベースについたようだ。
隣を見ると、淋がホッとしたような表情をつくっていた、きっと俺もそうだっただろう。
急いで飛行機に乗り込む。俺たちができることは、まだ終わっていない。

自動飛行の目的地に一番近いフライトベースを入力する、そこなら通信機器から援軍が呼べる。
モニターに目的地への到着時間が表示された。15分。

「もっと速く飛びやがれオンボロめ!」

俺はつい怒鳴り声をあげる。そんなことをしても速さは変わらないというのに。
しかし淋も焦りを隠せていないようだった。

俺は手に持っていた手紙へ視線を移す。
ガースは死ぬつもりなのだろうか。
こんなものを持っていたということはすでに死ぬ覚悟はあったのだろうか・・・。
そんな考えが頭をよぎる。

いつの間にか、目的地が見えていた。
飛行機は着陸態勢に入っている。これで・・・援軍を呼べる。
淋と目があい、淋も力強くうなずいた。

フライトベースへ着陸すると俺たちはすぐさま基地へと入る。
同盟軍の基地らしく、軍服を来たキャストの二人組みが近づいてきた。

「一体どうした?貴様らガーディアンズが同盟軍の基地に来るなんて。
 ミッションに失敗して助けを求めにでも来たのか?」

右側の緑色の装甲をしたキャストがあかさまな嫌味を言っている。
だがそんなことは構っていられない。

「頼む、通信機器を貸してくれ!仲間が危ないんだ!!」

きっと俺は今にも泣きそうな顔をしていただろう。
キャストの二人組みは驚いたように目をあわせ・・・笑った。

「ハッ、貴様らヒューマン如きのために我らの基地の通信機器を使わせろ?
 笑わせるな、そんなことをしたら私たちが処分をくらうではないか。」

そう冷たく言い放ち、キャスト達は基地内へ入ろうとする。
腹が立ちぶん殴ろうかとも思ったが、そんなことをしてはどうしようもない。
俺は必死にキャストを止め、頼み込んだ。

すると、基地内から赤い派手な装甲のキャストが出てきた。

「キ、キース少佐!?」

キャスト二人組みは慌てたように赤いキャストへ体を向け敬礼している。
どうやらこのキースとやらは相当偉いらしい。

「私はキース・スカイル少佐だ。この基地を仕切っている。
 一体どうした?何か困ったことでもあったのか?」

キースとやらは俺たちの話を聞いてくれるようだ。
俺は少しキャストを見直せそうだ。

「実は・・・私たちの小隊の隊長ガース・アーノルドがエンシェント・ドラゴンのディ・ラガンに襲われ
 危ない状態にある。今すぐにでも援軍を要請したいのだが。」

やっと話せる相手が見つかったからなのか、今まで黙っていた淋が口を開く。
いつもいいとこ取りなのは置いといて、まぁ淋のほうが状況を詳しく説明できるだろう。
複雑な気分だが俺は黙っておくことに決めた。

するとキースは俺たちが思いもよらなかった反応を示した。

「ガース!?あのビーストでナックル使いのガースか!?」

まさか、知っていたのか。いったいガースは何をやらかしたのだろう・・・。
しかし知り合いなら話が早い。助けてくれるはずだ。

「何、知り合いなのか?多分そのガースなんだが、
 援軍を要請できないだろうか?同盟軍が無理なら、通信機器だけでも貸してくれると助かるのだが。」

「あぁ、知り合いだとも。あいつには借りがある・・・助けてやりたいとも思う。
 しかし、我らは同盟軍だ。ガーディアンズに私的に力を貸すことはできない・・・。」

「そんな・・・!?頼む!通信機器を貸してくれるだけで・・・」

俺のそんな悲痛な言葉をさえぎるようにキースは大声でキャスト全体に命令を下す。

「そういえば最近周辺で原生生物が暴れていたな。
 我が軍はこれより周辺の原生生物の駆除へ出る!全員だっ!!」

突然の命令に同盟軍のキャストはざわめいていたが、命令は絶対なのかしぶしぶ出ていく奴もいた。
俺も一体なぜこんな命令をしたのかわからない。

「これは独り言だ。これより我が軍は全員原生生物の駆除へ出て基地内には誰もいない。
 しかし監視カメラは故障中で記録は残らない、誰か侵入者が入っても分からないから不安だが、
 こんな辺鄙なところに侵入する者はいないだろう。さて、と私も駆除へ行くことにしよう。

そう言ってキースは俺たちに背を向け歩き出す。
俺はその背に向かい礼を言ったがキースは何も答えず森の中へと入っていった。
前言撤回。俺はキャストを見直した。

「渋いキャストだな・・・。同盟軍も捨てたもんじゃない。」

淋がつぶやくように言った。俺も同感だ。
そうして、俺たちは通信機器を使い、本部へと援軍要請を送る。
ちょうど通信に応対してくれたのがミーナさんで、話はすぐについた。

「生きていてくれよ・・・ガース。」




狙いはやっぱり危険の少ない腹が妥当ってところか?
弱点はさすがに顔だろうが噛み付きと炎は厄介だからな・・・。
次に噛み付こうとしたときがチャンス、それを避けると同時に・・・踏み込むッ!

ディ・ラガンは牙を剥き長い首をしならせガースに襲いかかる。
その速度は驚くべきもので常人ならば何をされたかもわからずに食われるだろう。
それを体ごと左へ避ける。1秒前にガースがいた空間に牙と牙がぶつかり合う。
その金属同士がぶつかり合うかのような音を合図にガースは走り間合いを詰める。
首の戻りよりガースの前進のほうがかろうじて速い。

「ハン!わき腹ががら空きだぜ?」

間合いを詰め懐に入ったガースは拳を力一杯握り、右腕をディ・ラガンの腹部へと突き上げる。
完璧な攻撃、威力も申し分無い・・・はずだった。
普通の敵なら悶絶している所だろう。しかし、ガースの拳は火花を散らし、腹部の甲殻から弾かれていた。
ガースの体制は崩れ、それを狙っていたかのように尻尾でガースを薙ぎ払う。
尻尾はガースのわき腹に当たり鈍い音を立て、吹き飛んだ。

「貴様ノ腹ガカ?」

ディ・ラガンは余裕そうに笑いながら聞き返す。
圧倒的な硬さ、強さ。これがエンシェント・ドラゴンだと言わんばかりの笑み。
痛みよりも何よりも先に・・・腹が立った。

しかし、熱くなるのはいけない。怒りは覚えるが怒りに身を任せてはいけない。
それではただの獣。狩人はそれを狙い撃つ。冷静になれ・・・

・・・あー、無理。こちとらやられっぱなしで冷静にいられるほど人間ができちゃいねーんだ。
だいたい俺はビースト。獣だ獣。狩人が動きを予測してそれを狙い撃つのなら、
その予測のスピード、パワーを上回ればいい。理性を捨てろ、タガを外せ・・・
そうさ、俺はビースト。暴れ狂うのがお似合いだ。貴様の喉笛食いちぎってやる・・・ブチ殺セッ!!
アアアアアアアアァァアァァアアアアアアアァァァ!!

ガースの体が赤い光に包まれる。殺気と狂気に満ちた光。
褐色の肌は赤黒くなり、体毛は赤く色を変えている。姿形は獣というよりも鬼に近い。
オーラ・・・とでも言うのだろうか、赤い空気が蒸発していくように体中を覆っていて、
筋肉は発達し、隆々としている。

ビーストは過酷な状況下に置かれたために、その過酷な状況に対応しようと、
肉体を一時的に強化する術を身につけた。その名前は”ナノブラスト”
理性を一片も無くすことにより、身体のリミッターを外すことができる。
しかし、そこにあるは完全な破壊。ナノブラストは身体にも負担をかけるため、
ビースト達は好んで発動することはない。

普通のビーストでさえ、ナノブラスト状態の者はとても人の手に負えるものではない。
それが鍛え抜かれたガーディアンズ屈指のビーストだとどうなるのか。
それはこれから分かる事・・・。



アアァアアアアアアアァアァァアアアアアアァァアァァ!!
吼えたける鬼。迎え撃つは生ける伝説エンシェント・ドラゴン。
しかし、その伝説の生物はかつてない感情に襲われていた。

「ハハ・・・ハ、何ダコノエネルギーハ。マトモニ戦エバ我モ撃チ負ケルヤモ知レヌ。
シカシ何ダコノ高揚感ハ。我ニ正面キッテ戦エト申シテオル。ソンナ事ヲスレバタダデハ済マナイト言ウノニナ。
認メヨウ若キ者ヨ、貴様ハ我ノ敵ダ!!ダカラコソッ!我ハ正面カラ挑モウゾッ!!」

それは戦闘における快楽と恐怖。この竜は生まれて初めて戦いにおいてこの感情を抱いた。
今までこの竜にとって戦闘と呼べるものは一度とて無かった。あるのは一方的な搾取。
食べるために、一方的に命を奪い、まれにいる挑んでくる者は一方的に虐殺した。

戦闘とは、戦い闘うこと。言わば命の奪い合い。今まで奪うことはあっても、
奪われることの無かった竜にとって、初めての恐怖だった。しかし恐怖があるからこそ快楽があるのだ。

吼えながら突進してくる赤い鬼。それを迎え撃つ形で竜は長い首をしならせ牙を剥く。
それを鬼は横へかわし、腹へと一直線に向かってくる。さっきと全く同じ展開。
ただ違ったのは、その攻撃が並の金属よりも硬い甲殻を突き破ったということ。

竜のわき腹からは赤い血が流れだす。久しく流すことのなかった血。
痛みとはこういったものなのか・・・。
そんなことを考えるもつかの間、鬼は右腕を引き、次の攻撃に備えている。
これ以上のダメージはまずいッ!
咄嗟に竜は尻尾で薙ぎ払う。

手ごたえはあった。重い打撃。並の者ならば地面に足をつけていることは許されない威力。
しかし、奴はそこにいた。左手のみで尻尾を受け止め、しっかりと地面に足をつけている。
あらかじめ引いていた右腕から繰り出されるは必殺の一撃。
先ほどのわき腹を貫いた攻撃など比ではないだろう。
待っているのは・・・死。

我ハ・・・死ヌノカ?ダガ楽シカッタゾ勇敢ナル者ヨ。
願ワクハ、勇敢ナル汝ニ幸アランコトヲ・・・。

赤いしぶきが舞い上がる。それはまるで滝が逆流しているかのようであった。
ガースの一撃はエンシェント・ドラゴンの体の半分を吹き飛ばし、一瞬にして絶命させた。

そして、ガース自身も無傷というわけにもいかなかった。
身体の限界を超えた能力は、ガースの体を蝕む。
ナノブラストが解けたガースには、蝕まれた傷跡が生々しく残っていた。
何かを得るには何かを捨てねばならない。必殺の右を放った腕はもはや壊死していた。

「わりぃオリビア、約束・・・守れそうにないわ。」

弱々しい声でそうつぶいた。そうすることで少しでも謝罪しておきたかった。
例え聞こえなくとも、そうしなければ気がすまなかった。
視界全体が白く染まってゆき、ガースはそのまま地に伏した。



ガースがナノブラストした時を同じくして、ヴェイス達は援護班と合流していた。
ミーナの迅速な収集により、送られた援護班のヘリには、オリビアも同乗していた。
ヴェイスが無理を承知で、ガーディアンズを辞めた彼女も送ってくれるよう頼んでいたのだ。

流れるようなブロンドの髪に端整な顔立ち、色白の綺麗な肌。しっかりとした意思が宿った青い眼。
すれ違う者は老若男女問わず、振り返らずにはいられない。彼女を知っている者はみなそう言う。
しかし今、そんな彼女はヘリの床を心配そうに見つめているだけだった。

「報告!ディ・ラガンの巣に巨大な龍の残骸らしきものと倒れている人影を発見!
繰り返す!ディ・ラガンの巣に・・・巨大な龍の残骸らしきものと倒れている人影を発見!!」

このとき俺は、どんな顔をしていただろうか。あの伝説の龍をガースは倒したのか?
しかし、ガースも倒れている。相討ちなのか。それともただ疲れ果てているだけなのか・・・。

現場に着くと、救護班が慌しく動いている。それをかきわけるようにしてガースの元へとたどりつく。
淋も後ろから何も言わずについてきていた。

仰向けにされていたガースは顔に血の気が無く、右腕はボロボロだった。
死。頭にその一文字がこびりついて離れない。
俺はただそこに突っ立っていることしかできなかった。

「どいて!どいてッ!!」

後ろから悲痛な叫び声が聞こえ、しばらくするとオリビアさんが救護班をかきわけて来た。
彼女はガースの側に座りこみ、手から緑色の光を放った。
それは体力回復のフォース「レスタ」しかし彼女のそれは救護班5人掛かりのそれよりも
何倍も光り輝いて、そして温かかった。

「ガース・・・聞こえる?私だよ?ねぇ、ガース?」
彼女は何度もガースに呼びかける。優しく、慈しむように。
ガースのまぶたがぴくりと動く。彼女は額の汗をぬぐいながら、優しく微笑んだ。

「オリビア・・・なのか?」
ガースが気だるそうに目を開ける。

「えぇ、私よ、オリビアよ・・・じっとしてて、今助けるからっ!!」
ガースが目を開けたというのに彼女はどこかあせっているようだった。

「いや、自分の事だ・・・自分がよくわかってる。体中のリミッター全部外したんだ。
お前のレスタで少し話ができる程度だよ。だが、感謝してる。自分の口で・・・言えるからな。」

「何で・・・!何でそんな無茶したのよ・・・!?」
彼女の頬から涙が流れ落ちる。
その雫は、地面にゆっくりと落ちていった。

「惚れた女の前で・・・格好つけたかったのさ。生徒も守れずに、尻尾巻いて逃げたんじゃぁ
お前に合わせる顔もねぇ。俺なりに、お前に釣り合う男でありたかったんだ。
あの約束は守れそうにないわ・・・忘れてくれや。それと・・・今度こそお前に釣り合う男見つけてくれな。」

ガースは口の端を持ち上げて、笑った。悲しみをこらえるように、思いっきり。
彼女はバカね・・・とつぶやいた後、涙を拭いて微笑み返した。

「私は今日からオリビア=アーノルド。私はこの名を誇りに思うわ。
だから、名前を変える気もない。あなたあっての・・・私なんだから・・・。」

ガースは、お前も頑固だな・・・と笑い返して、ゆっくりと眠りについた。




© Rakuten Group, Inc.